特集 マレーシア:マルチメディアスーパーコリドー(MSC)(2)(シリーズ:不定期更新)
No.2 サイバージャヤの「MSCステータス企業」(1) 起業、そして国の発展
2000.11.17
まずは余談だが、日経新聞を読んでいると、サイバージャヤについての取り上げ方は主に2通りある。
@マレーシアの情報化について述べるとき:「シンガポールとともにIT化への取り組みは非常に熱心である」といった論調の例示として肯定的に用いられる。
Aサイバージャヤ自体について述べるとき:「立地しているのはNTTだけ」といった具合に実際の情報産業の集積にはまだまだ時間がかかるといった否定的な論調で語られる。
別にこれが誤りというつもりはないのだが、読者に特定の印象を与えよう(あるいは押しつけよう)という意図はどうしても見てとれてしまう。@はたいてい「日本がITの波に乗り遅れている」「アジア諸国に追い抜かれる」といったことの裏返しで紹介されているし、Aに至っては単に「立地しているのはNTTだけ」といっても、よく読んでみると一年くらい前までは「全く一社だけ」という書き方だった(これは実際誤りだった)のに対し、最近は「外資の大手企業のうち主要な事務所を立地・・・」の条件付きで立地しているのはNTTだけ、と書いている。しかし、そんなに注意して読まない大半の読者は「ああ、サイバージャヤの開発はずっと進んでいないのだなぁ」という印象を抱くだろう。
確かに前回紹介したように、サイバージャヤの開発地に広がる荒野(工事現場)を見ればそう思うのも無理はないだろう。しかし実際はちょっと違う。
サイバージャヤでは、すでに4つのオフィスビルがオープンし、企業の入居も続々と始まっている。そのうち「サイバービューガーデン」は、サイバージャヤを企画する政府組織MDC(マルチメディア開発公社)と、道路を挟んで反対側に位置する低層オフィス団地である。
まず、中に入ってみよう。2000年11月現在の状況は下の写真のようである。
(下左)サイバービューガーデンの導入路表側。従業員はすべて車で通勤。KL中心部からは現在は45分かかるが、高速道路(Dedicated
Highway)が出来れば所要時間は大幅に短縮されるだろう。ただ、その完成年は未定。
(下中央)サイバービューガーデンの中庭。平行配置の低層(地上2階)オフィスが計8棟程度並んでいる。緑が深く、昼間でも木陰にいると気持ちがよい。
(下右)隣接するホテル?には、レストランの他、プールもある。オフの時間はリフレッシュできそう。
「ガーデン」と名の付くだけあって森のログハウスのような雰囲気。木造のこぎれいな低層住宅が平行に並び、その間には小径にベンチでくつろげるようにもなっている。なかなか風通しもよく、外の暑さもそんなには気にならない。少し歩くとホテルのような建物が見えてくる。やはり低層木造でレストランの他プールもある。アメニティも想像していたより、結構充実していそうだ。
さて、このサイバービューガーデンの中に立地する企業1社に事前にアポをとっていたので早速会ってみることにする。
A社は、2000年設立ながら電子商取引のコンテンツ製作で急成長し、現在は60人余りの従業員を抱えるベンチャー企業。CEOはまだ40歳代くらいの中堅ビジネスマン風。
どうしてサイバージャヤ、そしてその中のサイバービューガーデンを選んだのかという質問に、
@そのITインフラのメンテナンスが保証できる
A(自然)環境・リゾートオフィスが享受できる
B将来のIT集積が見こまれる場所に早めに立地したい、
の3つをさらりと答えた。確かにこのサイバービューガーデンを見れば一応納得だが、ちょっと外に出れば工事中だらけ、おまけに完成年未定の高速道路まである。ここへの立地にリスクは感じなかった?との問いに「全くノープロブレム」との答え。政府の事業だし、メンテナンスもMDCをはじめしっかりしていることも立地決定に大きく影響しているようだ。今後、会社がさらに大きくなったとしても、やっぱりHQ(本部)は各種インフラの整ったここになるということであった。
ついでにMSCステータスの取得理由についても聞いてみた。『MSCステータス』とは、マレーシア政府(MDC)に認められた、ITをはじめとする高付加価値産業に携わる特定の条件を満たした企業は、税金・関税の減免、外国人雇用規制撤廃、特別に安い電話料金、インターネット無検閲等、様々な恩典が与えられるというもの。ただ、企業の規模や業種などによって、どの恩典が重要になるかは変わってくる。それを聞いたところ、CEOの最初の答えは、
「マレーシアの将来のためにステータスを取得して、IT化、そして2020年の先進国化に貢献したい。」
というものだった。具体的な恩典の重要性を聞かれながらまず国のために働くと口にしたこのベンチャー企業のCEO、話半分にしても、こういった意気込みを見せることが社員等に与える影響が少なくないだろう。特に熟練労働者の供給が不足しがちがマレーシアではなおさらだ。
まだ小さな動きではあるが、ここでは何かが起こる予感が感じられる。(つづく)■
(下左)A社のオフィス。著者もマレーシアIT企業をけっこう回ったので、快適そうなオフィスくらいではもう驚かなくなったが、驚いたのは木造オフィスならではの木の香り。
(下右)A社CEOが最後に紹介してくれた「天秤」。会社の正面玄関入ってすぐの目立つところに飾ってある。社長曰く「仕事も大事だが、家庭も大事、バランスを保って生きようという心がけの象徴」とのこと。