特集 マレーシア:マルチメディアスーパーコリドー(MSC)(4)(シリーズ:不定期更新)
No.4 「アジア型経済発展」とマレーシアの新たな挑戦
2001.1.1
今日はちょっと退屈な話をしよう。
これまで、マレーシアを含むアジア諸国は、先進国の多国籍企業による直接投資を原動力としつつ、製造業(自動車、電気電子産業等)中心の経済発展を遂げてきた。そしてその方法は、かなり単純に言えば下のような「成長の方程式」を政府が駆使した結果と言われている。
@国内産業を保護するための規制(株式保有規制、国内部品調達率、関税、その他)を全国にかける。 (輸入代替型経済発展戦略の名残)
Aしかし自由貿易地域(FTZ)を指定しそこでの自由な経済活動を条件付きで認める。減税などの優遇もする。(輸出代替型経済発展)
BさらにFTZ等の工業団地に集中してインフラ投資(電力、道路、港湾、その他)をする。
Cそれらの優遇等に従ってある程度の企業集積ができる。
D産業連環効果の高い主要製造業(自動車、電気電子等)を中心として集積が集積を呼ぶようになる。労働力も全国から適宜供給されるようになる。
E外資との取引で国内産業も成長していく。それにつれて規制を緩める。
↓
経済発展!
(下左) ペナンの工業団地。昔は貿易を中心に、80年代以降は製造業を振興に切り替え経済的な成功を収めた。
(下右) マレーシアのもう一つの工業集積があるジョホールバルの市内。シンガポールの対岸にあたり、経済的にもシンガポールとの結びつきが非常に強く、80年代に成長の三角地帯を形成した。
民間(企業)の力を十分に活用しながら政策面で政府がイニシアチブをとり、インフラ整備中心の開発計画を練り、外資多国籍企業を中心として立地を促し、国内大企業(とのJV等)も加えて劇的な経済発展を手にしたのである・・・。
その発展は、プラザ合意(1985)によって円高になった1980年代後半から、金融危機が勃発する1997年まで続いた。しかしその興奮の中でも、もともと人口が過少な上、タイ、インドネシア、そして中国と、多くの国との競争を強いられつつあったマレーシアの立場は、それほど安泰なものではなかった。連邦政府は1990年以降、それまでの製造業中心の発展戦略から、より高付加価値な産業の振興とその内生化を目指して多くの計画を策定、即実行に移してきた。その中でも最大のものが、このMSC計画となっている。合い言葉は「スマート(smart)」、そして「大躍進(Quantum Leap)」。
しかし情報化を担う情報通信産業は、基本的に自由な環境を好むという。現にIT集積の聖地・シリコンバレーの紹介では、必ずといっていいほど「斬新な発想を生む自由な環境」「規制等の政府の干渉がない」といった文章が見られる。確かに、ベンチャーから名を馳せて億万長者になった成功者達の伝記を読むと、昔はいわゆるパソコンマニア・・・気ままな生活、毎日Tシャツで出勤、昼夜問わない労働時間、そしてあくなき新技術と利益の追求・・・そしてそんな彼らを支えるエンジェル(投資家)達、そんな姿が紹介されている。シリコンバレーを支えたのは新興企業、そしてそれを支える大学、NPOであって、政府ではなかった。
今回紹介しているMSCプロジェクトは、それと比較すると、やはり連邦政府の主導である。
たとえば、サイバージャヤ等に立地するIT関連企業に数々の優遇を与える「MSCステータス」という称号は、No.3で紹介した4つのサイバーシティに(最終的に)立地することを条件としている。MSCステータスを取得すると、まず資本面では30%以上の株式をブミプトラ(マレー人)が所有しなければならないという制限の撤廃はおろか100%外資でも認められ、雇用面でも外国人知識労働者の雇用制限撤廃に加え、通常は2〜3ヶ月はかかると言われる就労ビザもMDCを通じて2週間程度で簡単に発行される、その他にも、格安の通信インフラアクセス料金、インターネット無検閲等、いろいろな特典が得られるのである!・・・。
しかし、よく考えてみると、一般の経済活動ではこんなことは自由である。ブミプトラ制限、インターネット検閲など、我々には想像もつかない。だがまさにこれがアジア流「成長の方程式」の最初の手口(上記@参照)。こうした、政府主導で、立地限定的な規制撤廃による工業核づくりを、相対的な労働コストの優位性とからめて、これまではあの「アジアの奇跡」と呼ばれる成長を成し遂げたのだ。
しかし、この「成長の方程式」が果たしてIT産業にも適用できるのだろうか?。それは10年後、20年後を見てみなければならないのかもしれない。No.1でも紹介されたように現在は荒野が広がるサイバージャヤが、人々で溢れる近未来都市になる日は来るのだろうか・・・
(下左) 緑豊かな現代都市クアラルンプール。IT企業の多くはまだこの都心に多く立地していると思われる。
(下中央・右) センチュリースクエアの完成模型と2000年11月現在のロータリー部分。建物はすでに2棟出来ているが、雰囲気としてはまだ荒野。
(つづく)■