特集 マレーシア:マルチメディアスーパーコリドー(MSC)(5)(シリーズ:不定期更新)

No.5 サイバージャヤの「MSCステータス企業」(3) 製造業とIT産業の挟間で

2001.2.3

 MSC計画は、その内容ではIT産業という新しいものを採り入れているが、計画の発想としては製造業中心の経済発展当時のものとそれほど変わらないことは、No.4で述べた。実際に、マレーシアのような中進国で、サイバージャヤのように元々何もないところにIT産業を呼び込もうとすれば、そうした手段を採らざるを得ないのかもしれない。やはりNo.4で紹介した誘致企業に与えられる称号「MSCステータス」も、そうした状況を反映してか、必ずしもIT産業に特化したものではなく、多少高付加価値化が見込まれるものを生産している企業には与えられるというようである。

 現に、4つのサイバーシティのうち、テクノロジーパークマレーシア(TPM)は、新しめのサイエンスパークという言葉がぴったり当てはまる。またサイバージャヤでもNo.2で紹介したサイバービューガーデンは別にしても、今回紹介するセンチュリースクエアなどは、やはりちょっと新しめのオフィスといった感じである。まずは中を見てみようか。

 (下左・中央・右) TPMには、すでに何棟ものオフィス棟が立っている。誘致に成功したサイエンスパークという感じで、現在も建て増し、増床の最中である。外は郊外であることも手伝ってかなり快適だが、中は無機質なオフィス+実験室。実は中は立ち入り禁止だったらしい。「Incubator」という言葉は、マレーシアのサイエンスパークで何度となく耳にするが、TPMでインタビューした企業は、インキュベーション効果は殆ど関係ないといっていた。

 内外の企業にインタビューすると、TPMの評価は二つに分かれる。もちろん郊外にあって広い土地が得やすく、かつ高速道路やLRTが間近に通っていて都心にも出やすく、パーク内の設備も既に充実しているという意見が一方にあり、しかし他方に設備の管理が行き届いていない、外国人にはなぜか冷たい、ロットが固定的で融通が利かない等の問題を指摘する企業も少なくない。
 TPMに立地し電子商取引のサーバを運営するある企業にインタビューすると、

「TPMを選んだのは、現在の従業員の住所がだいたいKL(クアラルンプール)やその周辺なので、またサービス・メンテナンスなど(でのKLとの行き来)で必要であり、また顧客をオフィスに呼ぶこともあるので、KLに近い必要があった。サイバージャヤでは特に従業員の家から遠すぎる、KLCC(ペトロナスツインタワー)ではレントが高すぎる、UPM-MTDCでもよかったがここの方がよりKLに近いということでTPMを選んだ。」

という答えが返ってくる。TPM内の他企業との関係はほとんどないとのことで、一般にいわれる同業種の集合によるインキュベーション(孵化器)効果はここでは聞かれなかった。同業種があんまりいないのかもしれない。

 また、No.1でも少しだけ紹介した、サイバージャヤ内「センチュリースクェア」の企業にもインタビューした。TPMとは都心からの距離やオフィスロットの大きさは違うが、どこか似たような雰囲気がある。

 (下左) サイバージャヤ内、センチュリースクェアも増床中。しかしここはまだ今ある2棟もすべて埋まっているわけではない。
 (下中央) センチュリースクェア内のある企業の実験室。光ファイバーの品質検査をする高価な機械がおいてある。確かにITだが、ちょっとイメージとは違う。
 (右) センチュリースクェアの中廊下。やはり無機質な印象は否めない。

 ある企業は、光ファイバーのパンフレットを見せてくれた。しかしそれを作るような装置はなく、どこからか光ファイバーを買ってきて品質を検査し多少加工してまた売り出すという半商社的な役割を担っているようだ。まあしかし実験室というか作業室があるところを考えると、製造業系の下請け会社といったところだろうか。IT産業という感じもしないし、高付加価値の作業という感じもしない。

 また、他の企業は半導体の設計を手がけている。MIMOS(マレーシア微小電子システム研究所(Malaysian Institute of Microelectronic Systems):科学技術環境省の傘下)の半導体部(Div. of Semiconductor)から、数人の職員が派遣され、研究所でのICの研究成果を活かしながらそれを商売に結びつけようとしている。将来的には、遠隔地間、例えば米国とマレーシアでの設計の共同作業をする予定という。そのためにやはりMSCのITインフラが欠かせないとの答えが返ってきた。ただクライアントとの接触には、ITインフラではなく、品質を直に説得するためのフェイストゥフェイスのコンタクトが非常に重要だとしている。

 以上、これまでマレーシアの経済を支えた製造業と、これからのマレーシアを支えるIT産業の挟間で、「MSCステータス」というマレーシア屈指の政府称号を得た様々なタイプの企業を紹介してきた。こうした産業の誘致の仕方、称号の与え方には賛否両論あるのだろうが、それはまた機会があるときに述べることにして、ここではともかくマレーシアのIT産業や新情報都市の担い手には様々なタイプがあることだけを示しておきたい。

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